勝負の決め手は“one more thing” 〜SPAJAM2016序盤戦を振り返る(東京A予選)
ネクストクリエーターが腕を競うハッカソン競技会「SPAJAM2016」が、今年も開幕しました。
今年は札幌、仙台、東京、岐阜、大阪、福岡の6都市9会場で予選を行い、勝ち残ったチームが7月に開催される本選に出場します。本選で最優秀賞に輝くと、シリコンバレースペシャルツアーにご招待です。
今年で3度目を迎えたSPAJAM。昨年は約100チームが参加し、うち7割くらいがハッカソンも初体験というフレッシュな顔ぶれながら、ハイレベルな戦いが繰り広げられました。
SPAJAMはクリエーター同士の交流も大切な要素にしており、参加者同士の自発的な交流も多数生まれたのも特色です。
新しい人生を拓いた人もいるなど、様々なドラマを生んだSPAJAM。今年はどんな出来事が待っているのでしょうか。
連休前の序盤戦、東京A、東京B、大阪の3予選を順に振り返ります。今回は東京A予選です。
▼初戦からハイレベルな腕自慢が集結
予選の皮切りとなった東京A予選は、4/9,10の土日で、恵比寿ガーデンプレイスにある株式会社コロプラで行われました。
参加したのは10チーム。
今回はハッカソン経験がある人たちが大半を占め、他大会で優勝経験を持つ人たちも複数参戦。
経験者組では、昨年の北陸予選から本選に出場したメンバーが、新たに高専OBチームを結成して、東京から連続出場を狙うほか、昨年、東京予選で惜しくも勝ちあがれなかったチームも、リベンジでこの場に挑みました。
▼外国人を擁するチームも
10チーム中、3チームは、外国人を擁しての参加でした。昨年も東京予選は外国人混成チームがいましたが、他地域の予選ではあまり見られない光景なので、この辺も東京らしさなのかもしれません。
うち1チームは専門学校生のチーム。海外から留学している4人の学生たちを、1人の日本人の学生が率いるという多国籍軍です。
▼東京は同じ会社の若手グループが多い
他地域と比べたときの東京の特徴がもうひとつあります。
東京では、同じ会社に所属する20,30代の若者が、自発的にチームを組んで、ハッカソンに参加をするケースが目立ちます。大阪や福岡など、IT関連のイベントが盛んな地域でも似たような傾向があります。
SPAJAMに限らず、私が携わったハッカソンも含めての考察として、それ以外の地域だと、
(1) ITコミュニティなどの活動で知り合った仲間でチームを組む
(2) 会社の社員としてチームを組み仕事で参加をする
というケースが目立ちます。
(1)の裏には、自分の会社では外の活動に関心のあるメンバーを集めきれないという事情もあり、意欲ある人が東京を目指したがる理由にも通じる部分がありそうです。
(2)は、人材育成という面では有効ですが、業務扱いにすると土日の参加に対して代休が発生するなど、コスト面での負荷や、会社として何をもって成果とするかなど、参加の理屈づけが厄介です。
それでも、昨年の参加チームでは、ITコミュニティとして参加をしつつ、その実績が会社で評価をされ、出世を果たした人もいれば、会社でSPAJAMに参加をして、ハッカソンで作った作品を客先の提案に活かし、新たな案件をゲットしたチームもあります。
なので、さまざまな事情をどう自分の成長や楽しみに活かしていくのかは、それぞれ工夫のしどころでもあります。
上記と比較すると、仕事とは関係なく楽しむ場、成長をする場として、同じ会社の若手同士でハッカソンに挑めるというのは、やはり若い人材が集中する東京の特徴であり、恵まれた環境であると言っていいでしょう。
▼対決を楽しむ
東京A予選では、高専OBチームが2チーム参加をしました。「kosen10s/S」と「kosen10s/S」と、似たような名前で本選出場をかけ、同じ東京A予選での対決です。
昨年のリベンジをはかるのは、「Attack on Sukeshni」。昨年も外国人を擁した実力派チーム。今年は複数のチームを東京の他予選にも散らし、1チーム目が東京A予選に挑みました。
ハッカソン常勝のリーダーが率いる「人口知能オリンピックチーム」は、リーダーの人脈でドリームチームを編成しての参加です。
▼テーマは「だれでも活躍できる」
SPAJAMでは、予選ごとにテーマを変えて、当日、開会してから発表をします。
社会課題解決やビジネス創出のハッカソンと異なり、顧客や目の前の困っている人・・・などが具体的におらず、自由な発想で、新しい価値を体験できるような表現を目指すのがSPAJAM流です。
しかし、こちらのほうが課題解決に使えそうだったり、ビジネス化できそうだったりするアプリが出やすい傾向を感じています。
日ごろの開発ではできなことをやろうというチャレンジングな精神が、参加チームに満ちているのが、その理由にあるのかもしれません。
東京A予選では「だれでも活躍できる」がテーマでした。
近い言葉だと政府が唱える「一億総活躍」が思い浮かぶところ。でも、SPAJAMでは、だれがどう活躍するのが正解なのか、主催側は用意しません。
自分たちなりの解釈で、審査員が「なるほど!」と思えれば、それが数多あるだろう正解の1つになります。
ここがSPAJAMの面白いところで、主催者や審査員を攻略するためのノウハウを駆使したり、協力企業が提供するガジェットを、提供者側が期待するであろう使い方をしても、なかなか勝ち抜くことはできません。
初回から参加チームを観察していると、前述のとおり「自由な発想で、新しい価値を体験できるような表現」を、思いっ切り楽しみながら作り込めるというのが、勝ち抜いたチームの共通要素のように思います。
▼ライトなアイデアソン
なので、アイデアソンでも、この緩やかなテーマから何を発想できるかを引き出すのが、主な目的になります。
発散型のブレストをスピーディに進め、テーマの解釈の幅を、みんなで拡げます。昨年と同じワークなので、本選での各WEBメディアの記者さんたちの体験記事もご参照ください。
アイデアソンではチームのメンバーもバラバラになって、他チームの人たちと一緒にワークをします。これは、SPAJAMがネクストクリエーターたちの交流の場であることと、新たな人の交わりから、新しい視点を獲得するためであることを考慮しています。
▼試行錯誤のプロセス 〜参加チーム点描
東京A予選でのチームの動きを、いくつかご紹介します。
アイデアソン終了後、数時間、パソコンに向かわなかったのは「おおさき温泉同好会」。テーマから企画に向かうための長考が続いていたようです。
技術をベースにした表現の腕に自信ありの「Attack on Sukeshni」も、今回はテーマの解釈にじっくりと時間をかけて臨んでいたようです。
「チームやまさき」は2人チームという小規模編成でしたが、なんと兄弟での参加。技術の兄と、兄を乗せるのがうまい弟のコンビで、息はピッタリ。
「どよめきサタデイ」は、都内ITベンチャ—の仲間で構成。この会社には、私が10年前に仙台でITベンチャーにいたときに、学生採用した元部下の鈴木くんもお世話になっていて、若いエネルギーに満ちた様子が、このチームから伝わってきました。鈴木くん、いい会社に入りましたね。
「ソロモンの輪」は、なんとデザイナーさんが急病でダウン。アプリ開発も短期間でマスターしたエンジニアが、デザインも数時間でマスターすべく、奮起していました。
「しゅがぴっぴ」は、メンバーの佐藤さんがチーム名の由来。さとうさん=シュガーという、どこかの声優さんみたいな名付け方になっていました。プランナー、デザイナー、エンジニアがバランスよく配置された安定感抜群のチームでした。
「人口知能オリンピックチーム」は、テーマ性の肉付けに、統計データなども駆使し、センサーガジェットを盛り込んだ開発も進める実力派。
「kosen10s/S」「kosen10s/F」は、前述のとおり高専OBチームの直接対決。楽しさ重視のITコミュニティ的なノリが一番色濃かったのは、この2チームだったように思います。笑い声が一番大きかったのが、印象的でした。
▼今年はコンテンツとハードの提供素材も
今年は、以下の素材も各社から提供いただきました。
カタログIPオープン化プロジェクト(バンダイナムコエンターテインメント)
→ナムコのゲームの素材が、音・2D画像・3Dモデルなどで使用可
センサーモジュール(アルプス)
→6軸、気圧、温湿度、UV/照度に対応したセンサーネットワークモジュール
開発用モジュール(テックウィンド)
→インテルのCurieベースのGenuino101
また、昨年に引き続き、Unity社からはUnity Pro、デジタルハーツからは検証用端末が提供されました。
さらに、モンテールからも引き続き、洋菓子を提供いただき、主催者手配のレッドブルも、各会場でバッチリ待機です。
▼粘りを見せた留学生
2日目の朝。「TECH.C.」が無念のリタイヤでした。サブリーダーだったフロントエンジニアの留学生がギブアップしてしまい、継続困難と判断した日本人のリーダーから、事務局へ棄権の連絡が入りました。
しかし、主力を欠いても、残った3人の中国・台湾出身の学生さんたちは、自主的に来場し、開発を継続。アプリは作れないものの、WEBでモックを作るところまで頑張りました。成果発表も、エキシビジョンで参加してくれました。
▼one more thingで勝ち抜いた
東京A予選を勝ち抜いたのは、「おおさき温泉同好会」。メインで発表していたアプリを応用して”one more thing”としてプレゼンした内容が高評価。
最後の最後で土壇場でオマケ的に出したものが、実は評価されるというのは、アイデアソンでもよくある傾向で、商品開発の企画出しの場面でも見かける場面です。
その”one more thing”のアイデアを実装するために、夜中にデジタルファブで素材加工をしながら、センサーモジュールを用途に合わせた形へとさらに改造したそうです。
こうした作りこみの楽しさを追求できたのも、過去の本選出場者に共通するよさだったと思います。
ということで、「温泉でハッカソン」をうたうSPAJAM本選を意識した名前のチームが、まずは最初の1枠目をゲットしました。
ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました!
▼予選エントリーはまだ間に合う!(4月末現在)
東海、札幌、仙台、福岡、東京Dの各予選は、4月末現在でまだエントリー受付中!全国どこでも1か所で参加できます(希望者多数の場合は選考あり)ので、奮ってご参加ください!